色物をたのしむ — 漫才・曲芸・紙切り・奇術・音曲
寄席に行って意外に思われるのが、落語ばかりではないことです。落語と落語のあいだに、漫才が入り、曲芸が入り、紙切りが入る。これらをまとめて「色物」と呼びます。寄席の看板や番組で、落語家と区別して名前を色文字で書いたことが由来といわれます。
色物は落語の合間の「つなぎ」ではありません。番組全体のリズムをつくる装置であり、それぞれが独立した芸として長い歴史を持っています。ここでは寄席でよく出会う色物を、見どころとあわせて紹介します。
太神楽(だいかぐら)の曲芸
寄席の色物といえば、まずこれを思い浮かべる人が多いはずです。傘の上で枡や鞠を回し、口にくわえた撥(ばち)の上に茶碗を積み上げていく——あの芸です。もとは神社の神事に由来する芸能で、寄席に入ってからも「翁家」「鏡味」「丸一」といった名跡が受け継がれています。当サイトの出演者欄でも、これらの亭号を持つ二人組の名前をよく見かけるはずです。
見どころは、失敗しそうでしない緊張と、その緊張をわざと客席に共有させる間の取り方にあります。積み上げた茶碗が揺れるたびに客席がどよめく、あの一体感は寄席ならではのものです。
紙切り
白い紙とハサミだけを持って高座に上がり、客席から出されたお題をその場で切り抜いていく芸です。「相合傘」「藤娘」といった定番のお題もあれば、その日の時事や季節のものが飛び出すこともあります。切っている間、演者は手元を見ずに客席と話し続けます。この「喋りながら切る」二重作業こそが芸の核心です。
切り上がった作品は、お題を出したお客さんに手渡されます。声を出してお題を言えば、持って帰れるものが増えるかもしれない——これは寄席で客席側が参加できる、数少ない機会です。
漫才・コント・漫談
テレビで見る漫才と、寄席の漫才は少し違います。寄席の漫才は持ち時間が10分前後と長めで、その分ゆったりした会話の可笑しみが中心になります。長く組んでいるコンビが多く、掛け合いの呼吸そのものが見どころです。一人で話芸だけを聴かせる漫談、道具を使ったコントも、寄席の高座には並びます。
奇術(マジック)
寄席の奇術は、大がかりな装置を使わない手品が中心です。狭い高座で、客席のすぐ目の前でやるので、テレビの手品とは緊張の質が違います。演者によっては、失敗を装って笑いを取る「コミックマジック」の色が濃い人もいて、種明かしよりも喋りを楽しむ芸になっていることも多くあります。
音曲・物真似・曲独楽
三味線を弾きながら小唄や端唄を聴かせる音曲は、寄席の空気を一段静かにしてくれる芸です。動物や乗り物の音を口だけで再現する物真似(「江戸家」の名跡が知られます)、独楽を綱の上で回してみせる曲独楽、ギターを弾きながらの漫談など、寄席の色物の幅はかなり広い。ここに挙げていない芸も、番組を見ていけばまだ出てきます。
なぜトリの前に色物が置かれるのか
色物が置かれる位置には意味があります。とくに、トリの直前は「膝がわり」と呼ばれ、ここには色物が入ることが多くなっています。落語を続けて聴いていると客席の集中は少しずつ疲れてくるので、その手前で目で見て楽しめる芸を入れ、拍手と笑いで空気をならしてからトリの一席に渡す——という設計です。
この受け渡しを意識して番組表を眺めると、「なぜこの人がここにいるのか」が見えてきます。番組全体の流れについては寄席の一日で詳しく書きました。
色物の出演者も、当サイトの芸人さがしから出演予定を追えます。