寄席わらし

寄席の一日 — 開口一番からトリまで、番組はどう組まれているか

寄席の番組表を初めて見ると、十数人の名前がただ並んでいるように見えます。けれど寄席の一日は、誰がどの位置に上がるかまで含めて設計されています。順番の意味がわかると、番組表そのものが読み物になります。

開口一番は前座から

その日いちばん最初に高座へ上がるのが「開口一番」で、前座がつとめます。前座は入門して数年のいちばん下の身分で、楽屋では師匠がたの着物をたたみ、お茶を出し、太鼓を叩き、高座返し(座布団を返して次の演者の名前を出す)までこなします。開口一番は、その日の客席をあたためる役目でもあります。番組表に名前が載っていないこともあり、開演時刻ちょうどに入ると「知らない人が話している」という状態から始まります。これはこれで寄席らしい光景です。

開口一番のあとは、おおむね若い順に上がっていきます。二ツ目が続き、真打が出てきて、番組が進むほど格が上がっていく。最後のトリに向かって、少しずつ密度が上がっていく構成になっています。

持ち時間はおよそ15分

寄席の一席は、だいたい15分前後です。落語のCDや独演会で聴く「一席30分」の噺を思い浮かべていると、寄席の高座はずいぶん短く感じるかもしれません。これは、限られた時間に十数組を入れるための約束ごとで、演者は同じ噺でも寄席用に刈り込んで演じます。逆にトリは30分前後の持ち時間があり、そこで初めてじっくりした一席が聴けます。

楽屋には「ネタ帳」があり、その日にどの演者がどの噺を演じたかが記録されていきます。あとから上がる演者はそれを見て、同じ噺や筋の似た噺を避けます。だから寄席では、一日を通して同じような話が続くということが起こりません。番組表には出てこない、裏側の設計です。

仲入り・クイツキ・膝がわり

興行の途中には「仲入り」という休憩が入ります。10分から15分ほどで、この間にお手洗いに立ったり、売店で飲み物を買ったりできます。仲入りの直前に上がる演者は「仲入り前」と呼ばれ、トリに次ぐ重い出番とされています。

休憩明けの最初の出番は「クイツキ」と呼ばれます。客席がざわついて、集中が切れた状態から始めなければならない難しい位置です。ここには、その場をぐっと引き戻せる演者が置かれます。

そしてトリの直前が「膝がわり」、略して「膝」。ここには色物が入ることが多く、漫才や曲芸、紙切りなどで客席の気分を軽くしてから、トリの落語へ渡します。重い噺を聴かせるトリの前に、あえて笑いや拍手で場をならしておく——この受け渡しが、寄席の番組のいちばん面白い設計かもしれません。

出囃子で、誰が出てくるかがわかる

演者が高座に上がるとき、三味線と太鼓の音楽が鳴ります。これが「出囃子(でばやし)」で、演者ごとに使う曲が決まっています。常連客は幕が開く前に、鳴り始めた数小節で誰が出てくるかを言い当てます。客席から「待ってました」と声が飛ぶのは、この段階です。

寄席の出囃子は録音ではなく、その場での生演奏です。高座の袖にある「お囃子部屋」で三味線が弾かれ、太鼓は前座が叩きます。前座が楽屋で覚えなければならない仕事のひとつがこの鳴り物で、誰の出囃子が何かを頭に入れておく必要があります。番組が滞りなく流れているように見えるのは、この裏方の働きによるものです。

ひいきの演者ができると、その人の出囃子も自然に覚えます。曲が鳴った瞬間に客席の空気が変わる——これは録音では味わえない、寄席に足を運ぶ理由のひとつです。

トリ(主任)が番組の中心

最後に上がるのがトリで、番組表では「主任」と表記されます。寄席の番組はトリを軸に組まれていて、10日間の興行は「誰がトリを取るか」で性格が決まります。当サイトの公演情報でも、出演者欄でトリの演者に「(主任)」と添えています。お目当ての演者がトリなら、その回を選んで行くという楽しみ方ができます。

なお、ここまでの流れは昼の部・夜の部それぞれで一通り繰り返されます。昼夜通しで居られる寄席なら、一日で二度この流れを味わえることになります。

用語の意味だけを手早く確認したいときは寄席の用語集もどうぞ。実際にどの日にどんな顔ぶれが並んでいるかは、公演カレンダーから日付ごとに見られます。